緊急通報を受ける主人公だけを映し続ける、神の目線(=客観性)がない映画『THE GUILTY/ギルティ』

2021/07/26

主人公のみを映し続け、部屋から外に出ない映画ですが、緊張感もあってとても面白かった。単なる事件解決のサスペンスではなく、テーマがあってそちらがメインとなります。

緊急通報を受ける仕事をしている主人公。警官ですが何か事件を起こしてしまって裁判中。裁判で問題ないと判断されるまでは通報を受ける仕事をさせられています。

気が進まない仕事に最初はただぼーっとするだけの映像がたっぷりと流れ、このひと大丈夫かなと心配になります。でも誘拐されている女性から緊急通報が来てからは一転して集中し、正義感に溢れ、自分にできる事は何か無いかと模索します。

警官なのに自分で犯人を追跡できないのはもどかしい。女性が生きるか死ぬかという状況なのに単に仕事として事件に対応する周りの人たちとの温度差もある。

楽しめた度

主人公だけを映し続ける、神の目線がない映画

この映画は主人公をずっと映し、電話を受ける部屋から出ません。誘拐事件が起きていて緊迫した状況ですが、主人公が聞いている電話の音声でだけしか事件の状況が分かりません。

面白い試みです。神の目線がなく、視聴者が分かるのは主人公が得た情報だけ。視聴者への説明が少ない映画です。

神の目線がないことで、主人公と同じように事件の状況が分からないもどかしさを感じる事ができます。

以前、電話ボックスでの電話のやりとりだけで終わるサスペンス映画がありました。あれと似ています。「フォーン・ブース」という2002年の映画です。

これなら音声だけでも良いという人もいるかもしれませんが、主人公の表情や置かれた状況を観られるので映像があるとより楽しめます。それに音声だけならそもそも興味が湧かない人が多いかと思います。

余談ですが、私は人の声が入っていない曲が好きなのですが(歌ものではない音楽、より正確には人の声はあっても良いが歌詞がないもの)、世間的にはマイノリティでしょう。テキストよりも画像、音声よりも動画、というように情報が多い方が楽しいし、好きだという人が多いはずです。集中力が少なくて済みますしね。

あと、映像に神の目線が無いことによる効果もあります。これは下でネタバレと共に書きました。

[ネタバレ] 「罪(ギルティ)」とは。神の目線がない効果

THE GUILTY/ギルティ』というタイトルの「罪」とは何だろうと思うと、ストーリーの後半から徐々に分かってきます。

終盤に主人公の罪の内容は完全に分かるわけですが、それよりも前に主人公の言葉からある程度は予想でき、罪によってストーリーのどんでん返しがあるわけではありません。

映画の最初で主人公がぼーっとしているのと、事件の通報をそっちのけにして上司と少し世間話をするところで人間性が心配になりますが、この映画の主人公は正義感が強い。電話対応が本職ではないのに、会話のやりとりもうまい。

映画を観ていくとこんなに正義感が強くて熱心な主人公が何の事件を起こしたのかと不思議になります。

主人公の心情の転換点としては勘違いで指示をしてしまった場面でしょうか。

今回の事件の対応を通し、主人公の意思が徐々に固まっていきます。映画のラストで自殺を止めるため、相手のために自分の罪の告白をしますが、自省の言葉です。

主人公は正義感が強いが故に、思い込みが強く、独善的に動いてしまう事がある。これが良いときもあるけれど、正義のために周りの人に無理を強いてしまう。

この映画は「思い込み」「独善」を描きたかったのかなと。

映像に神の目線がないことで客観性を無くしています。視聴者も得られる情報が限られて思い込みをしやすい状況です。

主人公は映画の最初で些細な事件だと思い込み、思い直し、事件の一部を聞いて全体像を思い込み、思い直し、自分のしたことは間違っていないと思い込んでいたのを思い直し。

この映画は反省が描かれているところが良いです。

映画の最後で、「お疲れ様」と投げかけられる言葉が主人公の正義感と対照的。

でも電話先の女性警官のように、ただ仕事として事件を追っていくような淡々としたものも悲しい。仕事とプライベートの切り分けがうますぎて逆に怖い。

「誘拐された!」と電話してもあの女性警官には「私の仕事は午後5時までですから」と言われそう。

そこには主人公の正義感が欲しい。どちらが人間的に信頼を置けるかというと、私は主人公の方。

サスペンスとしてはちょっと惜しい

映画は面白かったのですが、サスペンスとして見るとちょっと惜しい。事件の解決がメインとなる映画ではないので、緊張感の中で事件が解決する気持ちよさは無いです。

でも事件も綺麗に解決して、主人公の罪も描くのは難しそう。事件の解決が綺麗に行かなかったからこそ「罪」を思い返せます。

撮影費が少なくて済んだ映画かと思いますが、陳腐さは感じませんでした。

THE GUILTY/ギルティ』はとても面白く、この映画へのレビューコメントで「ザ・コール 緊急通報指令室」に似ているとあってそれも観たのですが、そちらは途中でイライラしすぎて観るのをやめました。

映画でこんなにイライラしたのは初めて。主人公は人に偉そうに教えている事とやっていることが真逆のクズ『ザ・コール 緊急通報指令室』
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Nomeu

ほとんどのジャンルのゲームが好きです。特に好きなのはRPG。「Xenogears」「クロノトリガー」「ペルソナ3、4」とか。ドラクエは「V」。主人公が「勇者」ではないところが好き。ビジュアルノベルは「STEINS;GATE」「Ever 17」「AIR」が好き。

どこぞの作曲コンクール最優秀賞受賞。好きなゲーム音楽は「愛のテーマ (FF)」「Heartful Cry (ペルソナ)」「夢の卵の孵るところ (Xenogears)」「凍土高原 (Kanon)」「夜の底にて (クロノトリガー)」「Theme of Laura (Silent Hill 2)」「Scarlet (みずいろ)」「bite on the bullet (I've)」など。たくさんありすぎてスペースが足りません。

ゲーム音楽以外だと「Ballet Mecanique (坂本龍一)」「月光 第3楽章 (L.v.Beethoven)」「水のない晴れた海へ (Garnet Crow)」「Angelina (Tommy Emmanuel)」「空へ… ライブ版 (笠原弘子/ロミオの青い空)」「太陽がまた輝くとき (高橋ひろ/幽遊白書)」「スカイレストラン (ハイ・ファイ・セット)」など。