子供の自然さと祖父母の異常さの対比で怖さはトラウマもの。最後のラップで一安心『ヴィジット』
幽霊や悪魔のホラーではなく、人が怖いタイプのホラー映画。面白かった。
あまり評価の高くない映画のようですが、私は気に入っています。
アメリカの映画というとどうしても悪魔が原因になるものが多いのですが、意外性のあるエンドで私が好きなタイプのホラーでした。見終わった後の気分も良いです。
目次
弟の演技が自然で凄すぎる
子供二人(姉と弟)が初めて母方のおじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに行くところから始まります。
姉は今回の訪問をドキュメンタリー映画にしようとしてカメラを回しています。映画は母親へのインタビューで始まります。母親は結婚が早く、これまで両親とうまくいっていない。母親の夫は家を出て行き、母には付き合っている男性がいます。
子供たちの思惑としては、母親にその恋人の男と遊ぶ時間を作ってあげるために祖父母の家に行き、うまく行けば祖父母へのインタビューを通して、母親と仲直りして欲しい。
弟はラップが好きで時々即興で歌います。リリックメーカーです。まだ子供なのに女がどうのこうのとか、ベッドに連れ込んで~、と歌うのでギャップに笑えます。
私は自信満々にラップをしているのをニコニコしながら見ていましたが、Amazonでレビューコメントを読むとラップが嫌いという人もいて、そんなに嫌いになるポイントもなかったかと思うのですが難しいものです。
この映画の子供たちはとても子供らしい。変に賢かったり、変にバカだったりしません。演技が自然で、本当に普通の子供たちに見えます。
弟が言う「姉貴ってきっと一生独身だね」「なんだよ貧乳のくせに」とかいう掛け合いも微笑ましい。
姉が映像を撮っているので弟の方が多く映りますが、この弟は特に自然な演技です。映画に出ているのが分かっていないかのように。
映画内で映画を撮っているという設定なので、それも演技臭さを感じさせないのに一役買っています。
そこら辺の俳優よりも演技がうまいような…。日本の映画とかドラマを見ると、ほとんどがこの子に負けています。
おばあちゃんの異常行動が怖い。追いかけっこはトラウマもの
祖父母たちはとても感じのいい人たちです。話し方は優しいし、料理もうまい。あまり色々言ってこない。
でも約束があります。地下室へ行かないこと、夜の9時半以降は部屋から出ないこと。地下室は「カビだらけだから」、夜9時半以降は「お年寄りは寝てしまうから」。
子供たちはその約束をそんなに気にしていなかったのですが、夜に部屋から出てみるとおばあちゃんが吐きながら歩いています。翌朝おじいちゃんに話すと「病気なんだ」と言われ、とりあえず納得します。
もの凄く怖いのは、家の床下で追いかけっこをするシーン。
弟と姉がカメラを持ちながら床下で追いかけっこをするのですが、突然髪の長い人が四つん這いで「見つけたぁ」と言って参戦してきます。
子供が手持ちカメラで撮っている映像なのでとても臨場感があり、ひぇっとなります。これトラウマものです。
このシーンは子供たちの演技も素晴らしい。
逃げて床下から外に出ると、追いかけてきていたのがおばあちゃんだと分かります。そしておばあちゃんがニコニコしながら普段の様子に戻ったように「ハッハッハッ」と笑います。
「チキンホットパイを作るわ」といって去って行きます。膝は泥だらけで、スカートは破れてしまっています。おばあちゃんは年なのに、四つん這いであの速度で追い掛けて来た。
姉と弟は「えっ、何これ」という感じでただ見つめ合います。このシーンがとても自然。
子供たちの自然さと、祖父母の異常さが見事な対比になっています。
その後もおじいちゃんとおばあちゃんを見ていくと異常な行動をすることがあり、どうも認知症みたいな状態です。
おばあちゃんが姉に「オーブンに入って中を掃除して」「ほらもっと奥まで」というシーンは怖い。何が起きるか想像してしまいますから。
[ネタバレ] 後半の盛り上がりは最高
どこかで書いたのですが、私は人の入れ替わりが怖いと思うのです。
普段から何も気にせず接していた人が実は違う人になっていた。外見は似ているけど、どうも言動がおかしい…。
ということで、ホラーは「映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!」を人に勧めています。ホラー過ぎて子供向け映画ではありませんね。後半はちょっとアレですが。
この『ヴィジット』も入れ替わりです。後半は本当に最高。
母親にSkypeのカメラでおじいちゃんおばあちゃんを見てもらうシーンが最高ですね。ここから焦燥感が凄い。「えっ、誰これ…」
人の入れ替わりの怖さを体験させてくれます。本当に唖然とさせてくれます。
映画序盤にあった、母親が両親と仲が悪く会っていない、子供たちはおじいちゃんおばあちゃんに会うのが初めて、というプロットがここに生かされています。
後半の隠しカメラを設置するシーンでは、ホラー映画をよく観ている人はどうなるか予想が付き、ややお決まりの怖がらせ方なので「そういうの怖いからやめろよ」と言いながら見ていました。
「ばぁ」と登場する分かっていても怖いシーン。おばあちゃん、こえー。隠しカメラを見つけて遊んだ後、元の位置に戻します。
おばあちゃんは怖がらせるのがうまく、おばあちゃんの登場シーンは画面の近くに姿がくっきり登場するので怖い。
他のホラー映画だと、「怖いシーンらしいけど画面に何が映っているか分からなくて怖くない」ということがありますが、ああいうのとは対極です。
[ネタバレ] 子供の成長も描いていて、見終わった後の気分が良い
この映画では辛さを隠して生きている人たちばかりが登場します。
父親がいなくなったことで子供たちは苦しんでいます。母親も苦しい。家にいたおじいちゃんとおばあちゃんも苦しさを抱えています。
おじいちゃんおばあちゃんは認知症とか精神疾患なので、人殺しは置いておいて異常な行動をホラーと言ってしまうのはちょっとかわいそうな気もします。
おじいちゃんは銃で自殺をしようとしていましたし、おばあちゃんは闇に飲まれないように無理に笑い、スカーフで自分の首を絞めようとしました。
エンディングが救いです。特に弟のラップのシーンがほっとさせてくれます。
弟は「3週間ずっと情緒不安定で、石鹸2個で顔を洗い続けた」「いつかは武勇伝になる」と言って笑わせてくれますし、姉は弟のラップに少しノリながら鏡を見て化粧をしています。鏡を見て化粧をする意味は映画を観た人なら分かるでしょう。
子供たちは辛さを乗り越えたのです。
ラストシーンで、私たちは姉が撮って編集した後の作品がこの映画なんだと分かります。ラストで母親と再会するシーンのBGMは「なんだコリャ」と思うわけですが、序盤で姉が語っていたように「ママが好きなミュージカルソングのBGMを流すことによって、ママの存在を示す」シーンということですね。
吹き替え版は声が綺麗
吹き替え版は姉の声がとても綺麗な声で、役者本人の声よりも綺麗です。ちょっと綺麗すぎですね。
字幕版も観ましたが、吹き替えの声の方が姉の演技がうまく見えます。吹き替えの清水理沙さんの声の演技がうまいわけです。