「シュタインズゲート」の緊迫感をもう一度体験できて最高。未来との情報戦『パスワード:家』考察・レビュー

2021/06/01 2021/05/31

面白かった!ビジュアルノベルゲームの「シュタインズゲート (STEINS;GATE)」で感じた緊迫感をこの映画でもう一度体験できたのがとても嬉しい。

パスワード:家」というタイトルが悪くて、B級感・C級感を醸し出していますが、元々のタイトルは「H0US3」。

このタイトルだと文字を数字に置き換えたのが日本人には分かり難いので、邦題には「パスワード」という言葉を入れたかったのでしょう。

この映画はネットでのセキュリティとタイムリープとAIを組み合わせたホラーで、切り口がとても面白いです。今の時代だからこそのホラー。

ホラー映画のカテゴリーに入っていますが、「スリラー」の方が正しいかもしれません。ホラー映画でよくある、音とか映像とかでの驚かしはありません。幽霊とか悪魔は登場しません。

怖いことは怖いのですが、会話と想像で怖さを醸し出すタイプ。

楽しめた度

セキュリティの知識が無いと前半はやや辛いが、勉強になるはず

IT系の仕事をしている旧友たち(+現在のパートナー)が久しぶりに別荘に集まるというところから始まります。その中で「ラファ」という人物が「どの無線LANでも入れる」と話すところからセキュリティの話がスタート。

映画の前半はセキュリティの解説と、同時に登場人物の倫理観の無さを示すのに使われます。視聴者用に「今の言葉分からないんだけど。教えて」と言う女性がいるのでセキュリティにそれほど詳しくなくてもたぶん付いていけます。

ネットのリテラシーやセキュリティの知識が無い人は「あ、こうやってパスワードとかを得られるんだ」と逆に勉強になることでしょう。世間の人がいかにセキュリティを知らず、プライバシーをダダ漏れにしているか警鐘を鳴らしています。

他人の情報を傍受する話の中で、「ラファ」という登場人物は他人の会話を読んだり、パスワードなどの個人情報を集めまくっているのが分かります。家に設置した監視カメラも見放題。

この人はそうとうヤバい人なのですが、旧友達はラファの性格を知っているので「お前どうかしているぞ」とは言わず、みんな話を合わせています。しかし、不快感や恐怖を押し隠しているのを感じ取れます。

解説が終わったら本題スタート。「シュタインズゲート」の緊迫感が再び

セキュリティの話から、WikiLeaks とジュリアン・アサンジ(WikiLeaks編集者)、エドワード・スノーデン、チェルシー・マニングの話に繋がっていきます。ここから本題がスタート。

ラファは WikiLeaks が公開した「インシュアランス・ファイル」のパスワードを解いたと言ったのです。このファイルは WikiLeaks の保険(インシュアランス)として公開されたファイルで、AES256で暗号化されていて、アサンジ氏などに何かあったときに復号パスワードがネット上に公開される予定です。

「ラファ」はそれを解いた。中にあるものを見た。

中に何があったのか。1つはスマホのアプリらしい。「AR(拡張現実)アプリだ、使ってみろ」と言われ、仲間が使ってみる。

ただのカメラアプリみたいだが…。いや、現実とアプリ内の映像で違うところがある。テーブルに置いてある水のボトルが、アプリ内の映像では倒れている。

「これはどういうことなんだ?」、「このアプリでペンを見てみよう」と腕を伸ばしたときに水のボトルを倒す。ARアプリで見た光景。

つまり、未来を見るアプリだったのです。

もうここからは本当にゾクゾクして楽しい。

どのくらいの先の未来が見えるのか色々試してみたり、そのアプリで金儲けをしようとする仲間が現れたり。

エンジニアの人がいるのでこのアプリを解析して設定を変更しようとします。どのくらい先の未来が見えるかを設定できれば…!

ただ倫理的な恐れもあり、果たして未来を見て良いのかと言い合っているうちに、「このアプリを使っている人が他にもいる」という考えが浮かんできます。

WikiLeaks がアメリカから入手したものだからです。

少なくともアメリカの中枢の人、WikiLeaks もこのアプリを手に入れて使っています。アサンジが逃げ込んだエクアドルの人も知っているのではないか。

ラファは「AIもこのアプリを入手できる。人類に脅威になるのではないか」と言います。

今の私たちの会話も筒抜けなのではないか。

その時、メンバーの1人が勝手に設定を変えて未来を見ます。すると、辺り一面が火の海。

「シュタインズゲート」のような緊迫感と焦燥感のある展開です。早く未来を見て対策を考えねばなりません。

ラファは「セキュリティ的にはコンセントを抜くのは試合放棄であり、事前に敵の攻撃を知っておけば完璧な対策となる」と言います。

評価は悪いけど、とても楽しめた

パスワード:家」は IMDb のスコアが現時点で 5.6 です。はっきり言って悪い方のスコアです。

ですが、とても緊迫感があって楽しめました。未来が分かるアプリを使って、同じように未来が分かる人・AIと戦う。

この監督は「シュタインズゲート」を観たかプレイしたのかもしれません。

演技はやや過剰なところもあり、みんなが未来が見えることをかなり重く捉えていて不思議でしたが、アイディアが面白くてとても引き込まれました。

これからさらに面白くなりそうだというところで映画が終わってしまうのが残念です。ここが IMDb のスコアを下げていそうです。続編を期待します。

シュタインズゲート」好きの人にお勧めしたい映画です。

普段映画を観ていてあまり不快感を感じないのですが、この映画では不快だったシーンがあります。それはアプリを知った後に、モニカがデビッドを二人きりで話したいとキッチンに誘うシーン。

モニカはデビッドに最近何故かサーバーにアタックが多い、あのアプリの所為ではないか、とまくし立てるように相談するのですが、デビッドの顔を自分の方に向けさせるために顔をベタベタ触りながら手で「こっちを向け」と顔をぐいっと強引に向けさせて話します。

これがもの凄く不快でした。

[ネタバレ] 考察

そこまで複雑なストーリーではないので考察というほどではないのですが、映画で描かれたものを確認していきます。

まず、何故ラファとその彼女はみんなを呼んだのか。それはパスワードを解いて見つけた、未来が見えるARアプリを信頼できる人と相談するためです(ラファがアプリのパスワード解析ができなかったのはややおかしさを感じますが)。

舞台の別荘はピコス・デ・エウロパ(エウロパ山 / スペイン北岸の山)にあり、インターネットは圏外でスマホからは繋がらない・繋がりにくいようです。

これはラファの発言で分かり、日本語訳では「直近の中継アンテナはポテス。だから電波は行ったり来たり」と訳されていますが、たぶん電波が悪く、たまに繋がるという感じかと思います。完全にインターネットに繋がらないなら後のシーンと繋がりません。

前半で登場した「Man in the Middle」はAIが人間を乗っ取るという話に繋がります。人間を観察し、行動を予想し、なりすます。

今から約7日後の未来で見たラファは未来のラファで、その未来のラファが7日前の過去を見ながら、今のメンバー達と対話します。このアイディアはとても良い発想ですね。

AIに情報をリークしてしまったのは赤みがかった茶髪の毛の女性ジュリア。「誰がリークしたんだ」と言われジュリアが居心地悪そうに頭をかく映像が映ります。

ジュリアはトイレでの彼氏のリカルドとの会話で、ジュリアの台詞に「報告すべきよ」と字幕がありますが、たぶん誤訳です。

誤訳でないすると、ジュリアはアプリを利用してお金稼ぎをしたいのに「(警察などへ)報告すべきよ」と言うのは意味が通りません。本当は「利用すべきよ」「報告すべきでないわ」のような台詞ではないでしょうか。

トイレで彼氏と会話した後、ジュリアはスマホで通話しようとします。スマホは圏外で通話ができなかったので、音声メッセージを送ります。

「もしもし、あたしです」

「電波が届いたらこのメッセージが届くはずよ」

「今、すごいものを見たわ。大金持ちになれそうよ」

ジュリアだけしっかりと外部に向かって情報を出します。

でも、誰と会話しているのでしょう?「もしもし、あたしです」という台詞は友達には言わないと思いますので、おそらく親かと思われます。

スマホのメッセージが映る場面でスクリーンショットを撮って、文章を Google 翻訳に掛けてみました。

たぶん親ですね。映画序盤で両親と会っているシーンがありますし。

ここで、やや深読みしてしまっている気もしますが、「Man in the Middle」の件がこれにも掛かってくるかもしれません。つまり、ジュリアが音声を送った相手は実はAIであった可能性もあります。

ラストシーンはAIに狙われないようにするため、未来を変えるために冗談だということにしました。これはAIが会話を聞いている、自分たちを見ているという事が前提となっていますが、家の中に監視カメラがあるのは映画序盤で印象的に映しています。

ドッキリだったんだよと言った後、ラファは彼女を抱きしめ何かを囁きますが、これは何の伏線か分かりませんでした。

怒った仲間達が上の階へ上がり、残ったのは三人。映画中盤で3時間先の未来を見たとき、テーブルに3つのグラスがありました。おそらく未来が変わらなかった展開になってしまっています。

デビッドはアプリの話を冗談にして未来を変えようとしたのですが、それは未来にいるデビッドも通った道なのかもしれません。

ここで、未来ビジョンではテーブルが片付いていたから今とは違う未来じゃないかと考えることも可能ですが、どちらも3人で話している訳なのでそこまで細かく考えなくて良さそうです。未来ビジョンの時間と今の時間がちょっと違いますしね。

Amazon Prime Videoで観る

「レビュー」の最新記事

その他の最新記事

About

Nomeu

ほとんどのジャンルのゲームが好きです。特に好きなのはRPG。「Xenogears」「クロノトリガー」「ペルソナ3、4」とか。ドラクエは「V」。主人公が「勇者」ではないところが好き。ビジュアルノベルは「STEINS;GATE」「Ever 17」「AIR」が好き。

どこぞの作曲コンクール最優秀賞受賞。好きなゲーム音楽は「愛のテーマ (FF)」「Heartful Cry (ペルソナ)」「夢の卵の孵るところ (Xenogears)」「凍土高原 (Kanon)」「夜の底にて (クロノトリガー)」「Theme of Laura (Silent Hill 2)」「Scarlet (みずいろ)」「bite on the bullet (I've)」など。たくさんありすぎてスペースが足りません。

ゲーム音楽以外だと「Ballet Mecanique (坂本龍一)」「月光 第3楽章 (L.v.Beethoven)」「水のない晴れた海へ (Garnet Crow)」「Angelina (Tommy Emmanuel)」「空へ… ライブ版 (笠原弘子/ロミオの青い空)」「太陽がまた輝くとき (高橋ひろ/幽遊白書)」「スカイレストラン (ハイ・ファイ・セット)」など。