好感度によるルート分岐がプレイヤーの選択を不自由にしている。Quantic Dreamが提示する選択肢では幸せになれない『Detroit: Become Human』レビュー
とても評判の良い人気のゲーム「Detroit: Become Human」。とても期待してプレイしてみたのですが、あまり楽しめませんでした。
「Detroit: Become Human」は「Fahrenheit」「Heavy Rain」「Beyond: Two Souls」などの開発・販売で知られている Quantic Dream のゲームです。
目次
ストーリーは凡庸で意地悪。選択肢から自由になりたい
「動くな」という人間の指令をアンドロイドが破るシーン
ストーリーは人間に便利に使われていたアンドロイドが感情を持ち出して人間の支配からの自由を求めるというストーリーで、SFではよくある話です。
何かミステリー・サスペンス的な要素があるかと思っていたのですが、進んだルートが悪かったのか引き込まれるミステリーはほぼなし。サスペンスは緊張感が足りません。
このゲームは3人(3体のアンドロイド)の視点で進むストーリーが細かく順番に切り替わって進んでいくため、興味が薄れやすいです。この時あのアンドロイドはこうしていた、そして合流というようなものを見せたいのだと思いますが、頻繁に視点が変わることによってストーリーに入り込めず興味が薄れてしまいます。
私はミステリー・サスペンス系のストーリーかと思っていたのですが、何と言うかそれぞれのアンドロイドがどう生きたかを見ていくストーリーで、人間ドラマ的なストーリーでした。序盤は特に退屈です。
Quantic Dream お得意の刑事側と犯人側をプレイさせるのは健在。しかし緊張感のあるシーンには出会えませんでした。
選択肢でストーリーが変わっていくのは面白いと思いますが、その選択肢の意図が分からないことが多く、選択肢の中から選びたくないことがよくあります。そして選んだらプレイヤーの意図と違って攻撃的な行動になることもよくあります。
ストーリーの進行はかなり意地悪なもので、ハッピーエンドにしたくないという意図が透けて見えます。「あなたの選択でストーリーが変わる」のはいいが、その選択肢が狭く不自由でストーリーが悪い方向に進みがちです。
Quantic Dream が提示する選択肢から自由になりたいです。
Quantic Dream が提示する選択肢では幸せになれません。「千と千尋の神隠し」のラストシーンで、提示される選択肢の中に答えがないことに気付かないとハッピーになれないのを思い出させます。
アンドロイド的な受け答えをするべきか?
このゲームの「選択肢」というものについて考えてしまったのは、今自分が動かしているアンドロイドはアンドロイド的な受け答えをするべきかどうか、ということ。
主役のアンドロイドはプレイヤーが動かしているのですが、プレイヤーは人間です。選択(受け答え)が人間的になります。しかし、ゲームに入り込んでアンドロイドのロールプレイをするならば、アンドロイド的な受け答えをするべきではないか。
しかしアンドロイドがアンドロイド的な回答をするというのも偏見かもしれない。
このゲームはアンドロイドが感情を持つというテーマなので、プレイヤーがアンドロイドを動かしているという構造自体が面白いです。
未来も人間は差別的なのか
そもそもアンドロイドはどうして感情を持っているんだろう…?
この問いはゲーム中では分かりませんでした。アンドロイドが感情を持てるとなるとかなりテクノロジーと文明が進んでいると思うのですが、登場するほとんどの人間は頭が悪く差別的で、現代の人間を描いている印象を受けました。
現代の人間が未知の技術で作られたアンドロイドを家電的に使っている様子、というのがこのゲームの世界の描かれ方です。もう少しテクノロジーに理解があっても良いような…。
アンドロイドに向かって警察(治安部隊)が対話をせずにすぐに発砲してくるのを見ると、アメリカなどの人種差別問題を想起させます。アンドロイドの方が頭が良いのに。
どうやら未来も人間の差別は直らないらしい。
好感度によってルート分岐するシステムが不自由
このゲームはルート分岐に相手からの信頼度を使っています。日本ではビジュアルノベルでよくあるシステムです。
しかしこれは「相手に気に入れられるような答えをする」という縛りが発生し、不自由です。
アンドロイドが自由に生きたいというテーマなのに、ゲームのシステムのせいで相手のご機嫌を取るような選択肢を選ばなければならないというのは苦しい。
例えば、アリスという人間の少女を、暴力を振るう父親から逃がすアンドロイドの視点があります。冬に雨の中逃げてきて夜になり、アリスが雨に当たって寒そうにしている。
自分はアンドロイドだから問題ないが、アリスのために暖かな上着が欲しい、泊まれる場所が欲しい。お金があれば…。
このシーンで、人の服を盗んだり、お金を盗んだりするとアリスが怒り、好感度が下がります。全てアリスのための行動なのですが、アリスは怒る。
アリスの好感度が下がるならゲーム進行で不利益が発生するからやめておこうかなぁ、と考えてしまいます。
本当はアリスのために法を犯したいのですが…。
もし現実なら「アリスのための行動なんだ」「そのままだと生死に関わる」と伝えられますが、ゲーム中ではその選択肢がなく、とても不満を感じるシーンです。
好感度が下がると進めないルート分岐があるため、選択肢にゲーム進行上の損得計算が生まれてしまいます。
選択肢でストーリーが変わっていくのはいいのですが、ルート分岐の条件に好感度は要らなかったように思います。
好感度がなければ選択肢の幅が広がり、自由度が増します。
選択肢の軸が暴力か非暴力かばかりでつまらない
アンドロイドが感情を持ち、人間の支配から自由になるとき、人間に反抗します。
このときの選択肢は、暴力的なものか、非暴力的なものかが軸にあって分かれています。どの場面でも。
暴力を振るうと世論が味方につかず、非暴力だとアンドロイドが殺される。このパターンばかり。黒人差別問題と同じかも。
ここでも選択肢は「世論を味方につけるかどうか」のゲーム上の損得計算があります。
私は最初は非暴力のルートに進みましたが、対話を求めても銃で撃たれるだけだったので人間に嫌気がさし、最後は暴力のルートに進みました。
ニュースキャスターもアメリカ政府の報道官も「アンドロイドは危険だ、破壊する」ばかり。偏見がとてもアメリカ的でした。
世論の好感度が上がってもその世論がアンドロイド達まで届きませんでした。
非暴力のルートだと他の状況が描かれるのかもしれませんが、治安部隊に一方的に殺されるのはやはり無駄死に感じられます。
アンドロイドそのものの描き方が足りない
とても不思議だったのは、アンドロイドが銃で体幹あたりを撃たれると死ぬこと。訳が分かりませんでした。
頭を撃たれて機能停止するなら、そこにコアがあるのかもしれないのでそういう舞台設定なのかと理解しますが、アンドロイドなのに脇腹に1発撃たれただけで死んでしまいます。
このゲームのアンドロイドはすごく脆く、人間より死にやすい。
計算能力はあるみたいなのですが、その計算能力をあまり発揮しません。終盤の銃の撃ち合いの時に敵の前に出て行ったらそりゃ撃たれるのですが、アンドロイドがそれを堂々とやります。行動予測をシミュレーションできる能力があるのに。
このゲームはアンドロイドそのものの設定をあまり明かさないのでアンドロイドとは何かがよく分かりませんでした。
シーンのスキップがなく、リプレイ性に乏しい
シーンのスキップができないのはこのゲームのシステム上大きな問題です。
ストーリーのフローチャートがありチェックポイントからやり直せるのですが、シーンのスキップが一切できないので、また同じ場面を見て選択肢を選んで、クイックタイムイベントもこなさないとなりません。
ものすごく面倒です。
そして、過去の選択肢を変えて違うルートに進んだとき、そのルートをストーリーに反映させるにはその過去からずっとプレイしなければなりません。つまり、過去の一部を変えてそれを現在にまでジャンプして反映させるということができません。
エンディングは何通りかあるのですが、その全てを見たいとなるとかなり時間がかかりますし、飽きてしまうでしょう。
私は違うルートも見てみたかったのですが、プレイが面倒だと感じてしまってできませんでした。
まとめ
ストーリーが面白くなかったことが一番残念でした。
ゲームモードは「簡単」と「難しい」しか選べず、中間がありません。Quantic Dream のゲームはクイックタイムイベント(表示されるボタンを素早く押すイベント)の連続でゲームとしてはそんなに面白くないのが想像できるのと、ストーリーを見たかったのでカジュアルを選びました。やはりゲームとしては退屈でした。
序盤はストーリーが盛り上がらず、お使いばかりで、操作性も悪く、クイックタイムイベントは退屈で、正直なところドラマや映画を観た方が良かったかなと感じました。
序盤はアンドロイドの奴隷的な日常を描きたかったのでしょう。それをゲームとしてプレイヤーにやらせると、表現したいことは分かるのですが、退屈になる。
難しいところですね。受動的な映画だったら観ているだけなのと、制作側の描き方次第でどうにでもなるのですが、ゲームだと退屈な作業をプレイヤーにやらせることになる。
クリアまでは10時間ほど。ちょこちょこやり直しをするともう少し時間がかかります。映画5本分、ドラマ1シーズン分くらいです。
プレイヤーの選択肢がストーリーに反映されるのは面白いのですが、訳の分からない選択肢とプレイヤーの操作ミスでキャラクターが死んでしまうのは理不尽です。やり直すのはチェックポイントが遠く億劫です。
映画とは違い、このゲームのように映画・ドラマをゲームとしてプレイすることでインタラクティビティがあってストーリーに没入しやすいのは、確かにそういう面はあるかと思います。
ですが、私としてはこのゲームはゲーム部分が煩わしく感じストーリーに没入できませんでした。
殺人現場の捜査は作業的、クイックタイムイベントは退屈で煩わしいだけなので、これならばそういうのを取っ払って選択肢を選んでいくだけのゲームにした方が良いような気がします。
あとメインキャラクターを3人に分けたために頻繁にプレイキャラクター(視点)が変えられるので、ストーリーへの没入がその度にリセットされます。
ゲームシステムがリプレイ性を著しく下げていて、チェックポイントが遠く、スキップがないのは大きなマイナスです。他のルートを見たくてもプレイするのが大変すぎます。
映像はなかなか綺麗でした。ただ、Quantic Dream 独特のキャラクターの動きの硬さがみられました。あと歩くと勝手にカメラの視点が変わって今どこにいるか分からなくなることが多々あります。
世間的にはこのゲームはとても評価が良いのですが、ゲーム、マンガ、小説、映画、ドラマなどである程度SFのストーリーに触れていると、「よくあるストーリー」にカテゴライズされ、ユニークさを全く感じられないかと思います。