人殺しを殺すサイコパスが主人公。警察内部にいながら警察より先に犯人を見つけて殺す『デクスター』
サイコパスのシリアルキラーが主人公で斬新、各シーズン毎にテーマがしっかりあり、ドラマとして構成が優れていてとても楽しめました。
サイコパスを扱った作品はたまに見かけるようになったものの、主人公がサイコパスで警察に所属しながら悪い人たちを殺していくというストーリーが斬新。シーズン1の第1話を見てこんな面白い設定のドラマが最近作られたのかと思ったら、何と2006年放送開始の作品でした。
このドラマのことは全く知りませんでした。最近 Amazon Prime Video で配信されて出会い、もう感謝しかありません。
「デクスター」は2020年にリバイバルが発表され、2021年の秋頃 Season9 の公開が予定されています。それでドラマを制作した SHOWTIME の公式サイトで過去の作品が見られるようになり、Amazon Prime Video でも配信されたという流れのようです。
目次
人殺しを殺すサイコパスが主人公
主人公のデクスターは警察の血痕分析官(血液専門の鑑識官)のサイコパス。しかも妹が警官です。妹は兄がサイコパスだとは知りません。
主人公は科学捜査や警察のデータベースから人殺しのデータを得て、法の裁きを与えられなかった相手を警察に見つからないように密かに殺します。
こう言うと良いことをしていると思われますが、殺しは違法ですし、サイコパスなので感情がない。単に殺しを合理的に行っているのです。「殺人をしても対象が悪人なら褒められても良いだろう」という逃げ道。
主人公には何かを殺したいという衝動があり、子供の頃の主人公をおかしいと思った父親(刑事)からルールを与えられ、殺しの衝動を抑えられないなら殺すのは悪人だけにしておけと言われてそれがずっと続いています。
刑事の父親は悪人を刑務所に入れておけない実情にいらだっていました。子供を心配しながらも自分のために利用していたのです。
主人公は分析官という立場を利用し、時には証拠を隠滅して、犯人に警察の手が届くよりも先に犯人を殺します。犯人が刑務所に入ると殺せないからです。
殺すときは薬で眠らせ、証拠が残らないように部屋全体にシートをかけ、体を切断して小さくしてゴミ袋へ。捨てるときは自分のボートで海にドボン。
サイコパスは頭が良いことが多く、主人公がバカな行動をあまりしません。見ていてストレスがなくて、これがこのドラマの良いところです。
ただ完全に証拠を無くすのは難しい。警察の同僚から疑いの目を向けられる事がある。ここで面白いのは、主人公が父親から与えられたルールは「悪人(人殺し)しか殺さない」なので、自分の正体がバレそうな状況になっても主人公を怪しむ善人は殺せない。さて、どうするのか。
主人公から見たドラマなのでどうしても主人公の味方をしてしまいます。たとえサイコパスのシリアルキラーであったとしても。
実は後天的サイコパス(ソシオパス)。観ていると分かる違和感
主人公デクスターの昔の出来事を見ると、デクスターは生まれながらのサイコパスではありません。後天的なサイコパス。現実的にはこのタイプのサイコパスはあまり数がいないかと思います。
ドラマ中では言及されませんが、観ているとデクスターに違和感を覚えるはずです。
それはデクスターは自ら「俺には感情がない」と言ってはいますが、感情があるということ。
完全なサイコパスはおそらく感情がなく、感情抜きして合理的に物事を進めていくかと思います。しかしデクスターは意外にも感情がある。ドラマ中でデクスターの心の声を聞けるのですが、思ったよりも感情があります。
主人公には義理の妹がいて大切にしています。本来のサイコパスは兄弟姉妹にもそれほど興味がないかと思いますが、その妹に対してはサイコパスらしからぬ行動を取ります。合理性を捨てて助けたりします。
ドラマ中では言及されませんが、おそらく後天的サイコパスなので少し感情があるのでしょう。私としては感情的になりすぎていて、それは悪手だ、もう少しうまくやってくれ、という場面もありました。本当に完全に感情がないサイコパスを見てみたかったです。
デクスターは報復的な行動をすることもあるのですが、実際のところサイコパスはどの程度まで感情がないのでしょうか。「良心がない」はよく聞きますが、感情がないというのは本当はやや間違っているのかもしれません。
なお、細かく言うと後天的にサイコパスのようになった症状を「ソシオパス (society-o-path)」というらしいです。
ここでは一般的な用語を使い、デクスターをサイコパスと表現しておきます。
なぜデクスターがサイコパスになってしまったのかは徐々に明かされる面白いところなのでドラマを観て下さい。
各シーズンに描くテーマがある。シーズン後半はやや失速
シーズン1の第1話から引き込まれ、シーズン8の最後まで見ました。
各シーズン毎にテーマがあり、サイコパスと他のサイコパス、サイコパスと家族、サイコパスと愛、サイコパスと友達などと、脚本がしっかりしていてダラダラと続いていくドラマとは違ってとても上質です。Jeff Lindsay の小説が元になったドラマです(cf. Wikipedia)。
「ウォーキング・デッド」なども最初は楽しいのですが、テーマがなく、ヒューマンドラマばかりでストーリーが進んで行かないので飽きてしまいます。その点「デクスター」はシーズン毎にテーマが違うので楽しいです。
特にシーズン1は面白かった。あのシーンがこう繋がっていくのかと構成のうまさを感じました。サイコパスジョークも冴えていて、笑いながら観られます。
私はシーズン1~3が一番面白かったです。シーズン4から脚本が雑になっていきます。脚本を書いている人が度々変わっていて、その影響でしょうか。
シーズン4あたりから質が低下してきて、恋愛の話が多くなり、殺しも証拠隠滅もストーリーの構成も雑になります。これは残念ではありますが、それでも他のダラダラ続いているドラマよりは面白いです。
シーズン4以降はデクスターが住居に侵入する時も堂々とするようになります。こそこそ入っていかない。廊下の真ん中を堂々と歩きます。
シーズン7あたりからは盛り返し、ストーリーの終わりに向けて進みます。
[ややネタバレ] 女性がわがまま。ラゲルタにイライラ
このドラマを見ていてイライラするのは女性達です。わがまますぎます。
Amazonのレビューコメントで妹のデボラが好きという人がいて驚きましたが、私は好きになれません。もの凄く身勝手なのです。主人公のデクスターに自分の感情をそのままぶつけてきます。
毎回で「兄貴、(捜査などを)助けてよ」「話したい」と言ってきます。兄貴のデクスターは助けるのですが、妹のデボラはデクスターの事情は一切考慮しません。これは主人公の恋人リタもそうなのですが、「後じゃダメ?」と訊くと「ダメ、今すぐ」。殺しの最中にも電話で呼び出されます。
恋人のリタに一番イライラしたのは、デクスターに「嘘はつかないで」と怒るのですが、自分はずっと嘘をついています(過去に結婚を2回したが、1回だけと言っている)。それを咎めるシーンがあって欲しかったのですが、ありませんでした。リタにイライラしていた私はカタルシスを得られませんでした。
Amazonにあるコメントで、リタの魅力がこのドラマを面白くしているというものがありましたが、私には全く分かりません。
助けに応じる主人公もサイコパスとしておかしいと思いますが、登場する女性達はみんなわがままです。アメリカでは普通なのでしょうか。それとも脚本の男性から見た女性像なのでしょうか。
さらにもっとイライラするのは女性の上司、ラゲルタ警部補です。
この女性は策略家で、仲間を蹴落として自分が昇進します。しかも仕事はしっかりせず、美味しいところを奪います。「私たち友達よね?」が口癖。人殺しはしていませんが、かなりの悪人です。デクスターに殺して欲しいほど。
このラゲルタがドラマ中ずっとのさばっています。ドラマを最後まで見ても正義の鉄槌が下されることがなく、ここが本当に不満です。ラゲルタにとても甘いドラマです。出演に当たって何かそういう契約があるのかと勘ぐってしまいます。
ラゲルタの恋愛事情がメインになるシーズンはとても不快でした。人として全く尊敬できない人物がそのままずっと仲間として登場するドラマも珍しい。この人が発する「私たちチームでしょ」という言葉が空虚です。
もしかするとデクスターよりもラゲルタの方がサイコパスなのでは…?
デボラがラゲルタに利用されるシーンでは「内部告発しろよ」と思ってしまいました。何でそのまま仲間として付き合っていくのか分かりません。
ドラマで登場する優しい人が清涼剤です。少し太っていてヒゲを生やしている刑事のエンジェル、シーズン7から登場するハンナ(女性なのにわがままじゃない)、シーズン8でデボラを雇ったジェイコブ・エルウェイ。
[ややネタバレ] お願いだから変装して
主人公は見つからないように行動しなければならないのに、変装をしません。見られたら顔がモロバレです。変装はたまに日中に帽子を被るぐらいです。ドラマ用に顔を分かりやすくしているのでしょうか。
シーズン8は女性がこっそりマイアミを脱出しなければならない状況で、ニュースで顔が知られてしまっているのに、その女性は一切変装しません。帽子を被ったり、髪の毛を切るぐらいしても良いのでは…? ニュースで流れた顔写真そのままです。何を考えているのか分かりません。
こんなに長いシーズンを楽しめるドラマは珍しい
女性達のわがままぶりにイライラポイントはあるものの、最後のシーズン8までずっと興味が続いたドラマでした。
このドラマを「必殺仕事人みたい」と言っている人もいますが、このドラマは勧善懲悪ものではありません。殺しがバレないように策略を巡らすサスペンスと、サイコパスの悩みと成長を見ていくようなドラマです。
人殺しの衝動が結果的に勧善懲悪になっていて、ここだけをみて「必殺仕事人のようだ」と言うのは視野が狭い。
シーズン1の時点でこのドラマの終わりはどうなるんだろうと考えていました。私の予想は、主人公に感情が戻ってこれまでのことを告白して自殺、または警官の妹が兄を殺す、あたりかなと。
サイコパスのシリアルキラーと言えば有名な事件があって、1974年頃から実際に30人以上殺したテッド・バンディは裁判で自己弁護をしていたものの、最後に死体に付いていた自分の歯形で犯行がバレてしまい死刑に(cf.Wikipedia)。
サイコパスでもたぶん刑務所・死刑は嫌だろうから、デクスターはその前に死を選ぶだろうなという予想でした。
どうやって終わりを迎えるのかが気になってどうしても最後まで見たかったドラマです。
振り返ってみるとシーズン1~3の頃が最高潮でした。「デクスター」は普通のドラマと違って先の予想が付かないので面白かったです。