「大いなる物語」に身を投じる、今日では失われた「冒険」。スピードハックで快適:『グランディア HDリマスター』レビュー
以前からプレイしたかった「グランディア(GRANDIA)」のHDリマスター版をプレイ。「グランディア」はPlayStation版を持っていたのですが、当時は序盤でプレイをやめていました。
今プレイしてみると、ストーリーは少年が冒険に出るもので雰囲気は和気藹々としていて昔懐かしの感覚。戦闘システムは面白く今でも十分通用します。ゲームスピードが遅いのが難点ですが、解決策があります。
目次
ストーリーは「大いなる物語」に身を投じるもの、今日では失われた「冒険」
PlayStationの時代のゲームは「大いなる物語(大きな物語)」に身を投じるものが多いです。
近年は「大いなる物語」を空想できる人が減ったのか、幻想(自意識の広がり)としてくだらないと捉えられてしまうためか、身近なところから始まる「小さな物語」が多くなり、このタイプのストーリーはほとんど見かけなくなりました(ポストモダン)。
グランディアはその大いなる物語に身を投じるストーリーで、今プレイしてみると「天空の城ラピュタ」を感じます。
昔々、今よりも発展したエンジュールという国があり、翼の生えた光翼人がいて、精霊石というものがあった。しかしその国は滅亡してしまった。現在では遺跡として建造物が残っており、考古学として研究が始まったような段階。神話に近い。
既に亡くなっている主人公の父は冒険家で精霊石を持っていました。主人公はその精霊石を受け継いだのですが、周りからはその精霊石が本物だとは思われていません。考古学者に訊いても真偽が分からない。
主人公はその失われた古代文明の話が好きで、本当にあったんじゃないか、あったらいいなとその文明を思い描いてワクワクしています。遺跡に行ってみると肌身離さず持っていた精霊石が反応して、扉が開く。そこで光翼人と思われる人と映像を通して会話でき、「アレント」へ来なさい、と冒険に誘われます。
そこから主人公は冒険に出ようと決意して行動に移します。母親には言わずに冒険へ旅立つのです。しかし「世界の果て」という世界の端にある高い壁にまで到達しても「アレント」が見つからない…。
昔はこういったストーリーが多かったです。「冒険」というものが身近にあった。「冒険」にワクワクできた。
しかし今は「冒険」なんて空想だとみんな分かっています。分からないことは検索すれば良いし、Google Earth で簡単に世界を見られます。
私は子どもの頃は行ったことのない道に出ると世界の広がりを感じてワクワクしたものですが、今ではスマホでのGPSを頼りに目的地へ行くための単なる通路としてしか捉えられず、知らないものは面倒なものになってしまいました。冒険とは真逆です。この思考方法は良くないと感じています。
今のマンガやアニメは死んで異世界へ行くというものばかりになりました。死なないとしても「ソードアート・オンライン」のように装置によってバーチャルリアリティの異世界へ入るものが増えました。
「冒険」は異世界にまで行かないとできない事となってしまい、「今を生きる自分とは関係の無いこと」になり、完全なファンタジーになりました。
「大いなる物語」も失われ、そんな話は自分とは関係がない。「大いなる物語」を俯瞰的に見る視点があって醒めさせられます。つまり、こういうことです。「大いなる物語」をさらに括弧に入れます。
『「大いなる物語」を語っている人の頭の中では「大いなる物語」なのだろう』。
みんなとても現実的になり、冷笑的になり、ファンタジーが失われています。確かに「大いなる物語(大きな物語)」は自意識の拡張として捉えられるのですが、同時に憧れもある。そういった世界観へ自己を投じて楽しみたい。相対化するのではなく没入したい。
楳図かずおさんも言っていましたが、自分のマンガをドキュメンタリーとしてしか捉えられない人がいて悲しい、と。空想の世界を受け止めて楽しめる人が減ったと。
私がゲームのジャンルでRPGが好きなのはその世界観へ没入できるからです。(ただ最近はコマンド入力型RPG、いわゆるJRPGが減ってアクションRPGが増えています。私はアクションゲームだと世界へ没入できません。)
「グランディア(GRANDIA)」は1997年のゲームでJRPG全盛期。大いなる物語の中で冒険できます。
未知のものを楽しめる人、「冒険」にワクワクできる人ならこのゲームを楽しめるでしょう。前半はコメディが含まれ、明るい前向きな雰囲気の冒険です。後半からはシリアスな展開に。
「バカッ!わたし、泣いちゃったじゃないのっ!」。台詞が時代を感じさせます。
ちなみに、このヒロインの声優は日髙のり子。声をあてた有名作品は、球児を描くアニメ「タッチ」の浅倉南、格闘家の日常コメディアニメ「らんま1/2」の天道あかね。
私には天道あかねのイメージが強く、声からツンデレ系かと思いましたが、意外と素直な性格のヒロインです。
パーティーメンバーの入れ替わりが激しい
このゲームの前半は明るくコメディタッチで展開していきます。ですが後半からはシリアスな展開で、明るいこのゲームで仲間との別れが多くて驚きました。
ちょっとネタバレになりますが、昔のゲームですから良いでしょう。プレイ予定の人はこのセクションを読み飛ばして下さい。
主人公は幼なじみの「スー」といつも一緒に遊んでいます。他の男の子は「スー」をお嫁さんにしたいと主人公のジャスティンと争ったりしています。
スーはとても素直な性格で、主人公を立ててくれて、精神年齢が高いです。ジャスティンが旅に出るときにジャスティンはスーは子どもだからと言って連れて行かないのですが(8歳。ジャスティンは14歳)、スーが勝手に付いてきます。
しかし、冒険の途中でスーが倒れます。医者には疲れが蓄積している、ジャスティンと一緒に冒険するには身体能力が足りない、と言われます。
ジャスティンは少し休めば大丈夫だと前向きに応援するのですが、スーの決断は違います。冒険は続けられない。町に帰る。
ジャスティンは一度しか使えないテレポート装置を冒険のために使わずにスーのために使います。
このシーンは驚きました。和気藹々と始まった冒険で、スーはいつも一緒にいました。
テイルズシリーズ(テイルズオブシリーズ)など、JRPGでは幼いキャラクターが多いので、私は当然最後までスーがパーティにいるものだと考えていました。一度パーティを外れても後で合流するんでしょ、と。
しかしグランディアは意外と現実的で、スーは完全にパーティから外れます。
スーがいなくなった後、スーが獲得した経験値を他のメンバーに受け渡すアイテムが残ります。これで実感が湧きます。スーはもう復帰しないんだなぁ…と。
…能力の最大値を強化する貴重な実と魔法を覚えられる貴重なアイテムを使ったのに! …いや怒りませんが。
スーの決断は素晴らしいです。8歳でこんな決断ができる人はいないでしょう。ずっとジャスティンと一緒にいたいと思うのが普通ですが、スーは冒険の邪魔にならないように身を引くのです。凄すぎます。
グランディアは意外とパーティメンバーの入れ替わりが激しく、一度パーティからいなくなると復帰しません。ここまでメンバーが入れ替わるのはJRPGにしては珍しいです。
戦闘システムは戦略性があって面白く、少し改善すれば今でも通用する
戦闘はファイナルファンタジーのアクティブ・タイム・バトルシステムに、戦う立ち位置の要素を軽く含めたシステム。
当初の横スクロールに奥行き要素が追加された後のテイルズシリーズ(テイルズオブシリーズ)のコマンド版に近い。
敵が攻撃体勢に入った時にこちらが攻撃すると、敵にカウンター攻撃ができたり、敵の攻撃がキャンセルされたりします。敵からの攻撃でも味方の行動がキャンセルされます。
敵の攻撃をキャンセルしたり、攻撃することで行動のタイミングを遅らせるのはとても戦略的で面白いです。ボスでもタイミング良く攻撃するとほとんどダメージを食らうことなく勝てます。
ただ惜しいのは、味方の行動のタイミングをずらせないこと。敵の行動のキャンセルを狙って少しだけ待機してから攻撃したい、などとタイミングをずらすことができません。行動の順番が来たら「待機」ができません。
でも、プレイヤー側からするとタイミングずらしができると便利なのですが、敵もタイミングずらしができてしまうと戦闘が戦略的になりすぎるかもしれません。プレイヤー側だけタイミングずらしができると優しいシステムになります。
あと、戦場に空間(奥行き)がある事によって、相手に近づいてから攻撃するラグ、範囲攻撃の範囲に入るかどうか、という戦略的な要素があります。
相手に近づくには少し時間が掛かるのでこれを利用してタイミングずらしを行ったり、敵がこっちに向かってくるときにモーションが少ない武器で攻撃すればカウンター攻撃が可能です。
また、敵からの範囲攻撃は味方の立ち位置をばらけさせることで同時に攻撃を食らうリスクを回避できます。
敵の正面にいると当たってしまうビーム。立ち位置を移動させて避ける。
戦場に空間(奥行き)があるのは戦略性を上げていますが、少し厄介な面もあります。
- 遠くの敵に攻撃をしようと走って近づくときに、他の敵や仲間の体につっかえて近付けない場合は攻撃を諦めてしまうこと。思ったようなルートで移動してくれず、変につっかえる事も。
- 立ち位置を簡単に変更できないこと。「回避」というコマンドで立ち位置を移動できますが、移動先の位置は自由ではありません。
- 範囲攻撃の範囲が分からない。どこまで移動すれば敵の攻撃が当たらないか分からない。また、こちらの範囲攻撃の範囲も表示されないため、どの距離までの敵が攻撃に含められるか分からない。
これは簡単に改善できそうなところで、今「グランディア」の戦闘システムを蘇らせてゲームを作っても十分楽しめると思います。
昔のゲームですがシステムは完成度が高く、今プレイしても戦闘を楽しめます。敵を倒したときに敵が割れるようなエフェクトで消滅するのが気持ちいいです。
成長システムは戦闘の経験値と熟練度との2要素
成長システムは、敵からの経験値によるレベルアップ、使う武器やスキルの経験値による能力アップの2つの要素があります。
レベルアップはどのRPGにもありますが、武器にもスキルレベルがあり、武器スキルのレベルアップでキャラクターステータスが上がるのは珍しい。
武器のスキルレベルを上げることによって新たなスキルも覚えられます。上のスクリーンショットにあるように「????」となっている技をアンロックするにはどの武器のスキルレベルを上げれば良いのか分かりやすいです。親切なシステムです。
魔法にもスキルレベルがあり、武器と同じです。多くの武器を扱えないキャラクターは武器のスキルレベルのアップによる能力アップができないのですが、その場合は魔法を使うことによって能力を上げられます。
キャラクターを強くするには敵を倒すだけでなく、どの武器を使うか、どの魔法を使うかという要素があり楽しめました。
キャラクターを成長させるのが楽しかったです。成長させるのが楽しいゲームはのめり込めますね。
マップが見づらい、ミニマップがない
このゲームはダンジョンなどマップが広いです。視点が回転できる3Dマップです。
マップが広いのに、カメラの位置が近い。ミニマップがない。
昔のゲームはミニマップがなく、ミニマップになれていると大変です。このため、今自分がどこにいるのか、どのように移動したかを常に意識しながら移動しなければなりません。
そして、やはりマップ上のアイテムは全て拾っていきたい。アイテムは視点を変えないと見えないところにおいてあることもあるので、視点カメラを回して探索するのですが、視点を回すと覚えているマップが分からなくなるのでとてもリスキーです。
どのルートに行ったかを忘れないようにしながらの移動です。ただこのゲームは単なる行き止まりがあまりなく、大抵アイテムが落ちているのが優しいです。
当然敵もいて戦闘があってマップを忘れやすい。救いなのはシンボルエンカウントだということ。敵に接触しない限り戦闘に入りません。
記憶力はプレイヤーによりますが、私には結構辛かったです。下で書きますがこのゲームはゲームスピードが遅く、移動のミスと戦闘で時間を取られます。
ダンジョンに時間が掛かるので途中から攻略サイトを見てしまいました。nJOY というサイトです。昔のゲームなので攻略Wikiはないかもと想像していたのですが、攻略サイトがあって助かりました。ミニマップを作ってくれているので分かりやすいです。
ゲームスピードが遅いのが難点だが、解決策がある
このゲームは全体的にゲームの速度が遅いです。
移動も、戦闘も、会話も、ゆっくり。戦闘が遅いのが一番辛いです。魔法とか技とかを使うと見ているだけの待ち時間が発生し、ふぅとため息をつきたくなります。
最初はまぁ昔のゲームだからと我慢していたのですが、マップが複雑になって行くにつれ、移動と戦闘でダンジョンの攻略に時間が掛かるようになってしまいました。
何か手はないかと探したところ、スピードハックができると分かりました。「CheatEngine」を使用してゲームスピードを上げてプレイしました。
ゲームスピードを1.5倍~2倍にすると快適です。このゲームは本来 30fps なのですが、ゲームスピードを上げるとフレームレートが上がり、動きが滑らかに見えます。
ただ注意しなければならないのは、ゲームスピードを上げてもこのゲームの会話音声はそのままの速度で再生されるため、音声が自動で進むダイアログテキストに付いてこれません。その時は速度を1倍に戻していました。
ショートカットキーを設定すれば手間ではありません。ゲームスピードが上げられるのは本当に助かりました。
総評 4/5
点数を付けるなら 4/5。スピードハック前の、ゲームスピードが遅い状態ならもっと点数が低いです。
冒険はできたのですが、私にとってストーリーはあまり意外性がありませんでした。昔のゲームってこういうのよくあったな、というストーリーです。
ラピュタ感はあったのですが、最後は敵を倒して世界を救う系のよくある話になってしまいました。
終盤プレイヤーは他の場所へ行かないようにワールドマップでの移動が制限されています。このため世界の状況を知る術がなく、また世界の状況を映すシーンもなく、世界が危機に瀕している実感が全くありませんでした。
主人公の身の回りだけでストーリーが進んでいくため、世界を感じ取れませんでした。もう少し主人公がいる世界のことを描いて欲しかったです。これを思うと、「クロノトリガー」の未来の終末感は素晴らしかったです。
終盤は「世界」を描かず「セカイ系」のストーリーになってしまうのではないかと危惧したのですが、ギリギリそっちには行きませんでした。
テキスト量は多く、町人に連続して話しかけると会話内容が変わっていき、どのモブでも連続で3回分ほど会話量があるというのは凝っています。
敵の体内を思わせるダンジョン。
注目したいのは、脇道は2枚の扉で、目の前の道は3つの壁で遮られていること。もしかしたらマップを作った人が人体の弁の数に違いがあることを知っていてこのデザインにしたのかもしれません。たまたまかも。
まとめますと、冒険のワクワク感はあったものの、ストーリーはそこまで楽しめませんでした。しかしゲームの戦闘は今でも通用しそうなくらい面白いかったです。Steamでの実績は全て取得しました。
もし昔のゲームや昔の小説・アニメなどをあまり知らなければこのゲームのストーリーを逆に新鮮だと楽しめると思います。