説得力のある言葉を聞くのが面白い。自動運転車でのトロッコ問題への新しい答え『BULL/ブル 心を操る天才』レビュー
最近は動画ストリーミングサービスが流行っていて、せっかく Amazon Prime 会員ですし、ドラマとかアニメとかを見てみようと面白そうなものを探してみました。
見つけたのは「BULL/ブル 心を操る天才」(吹替版はこちら)。ジャンルは弁護士ドラマですかね。主人公は弁護士ではないのですが。
私はあまりドラマを見ないのですが(特に日本のドラマは見ません)、このドラマは相手を納得させる言い回しがとても面白いです。世の中の問題を色々と考えさせてくれますし。
このドラマは第一話からもの凄く展開が早い。見ていてストレスがありません。ただ、展開が早いので目が離せないというマイナス面もあります。言葉ではなく映像で説明するシーンがあるためです。映像を見逃すと文脈を逃してしまいます。
第1話は説明無しにいきなり色々と巻き起こるため、最初は何を見させられているか分からないです。ですが数話見るとどのようなことか分かってきます。
裁判科学とは
主人公のドクター(博士)、ジェイソン・ブル(Bull)は「裁判科学」の専門家で TAC(Trial Analysis Corporation) という会社を経営しています。
「裁判科学」は現実にはない学問かと思いますが、アメリカの陪審制の裁判を科学するもので、参加した陪審員が有罪か無罪かのどちらかの決断をするのかを心理的に事前に予想するというものです。
最初は第1話を見ても意味が分からないと書きましたが、これはTACが行っている事が説明されないためです。少し説明しますと、TACが行うのは大きく3点あります。
- 陪審員のバックグランドをチェックして、予備尋問で陪審員を忌避する(その陪審員を外す)
- 陪審員のバックグランドに似た人を探し出し、疑似陪審員としてお金を払って召集し、今回のケースでどのような判断を下すかを見るために裁判の模擬テストを行う
- 実際の裁判中に疑似陪審員を傍聴席に参加させ、心理状態をチェックするデバイスを付けさせる。それを見ながら、実際の陪審員の心の揺り動きをチェックし、適切な文言を選んで裁判を有利に運ぶ
1が重要です。アメリカの裁判制度(小陪審)では選ばれた12人陪審員がいます。Bull 側の主張が受け入れられて有利になるようにするため、裁判前に選ばれた陪審員に質問をして、この陪審員は不利に働きそうだと判断したら陪審員から外れてもらう制度を利用します。欠員はプールから補充され、他の候補者が陪審員となります。
Bull は弁護士ではないため、裁判に弁護士として直接は参加できませんが、弁護士に陪審員の忌避や話すことを色々指示をします。Bull は心理学を学んでいてその場で判断し、TACの社員は陪審員のバックグランドのデータを集めて、裁判中も Bull に小型イヤホンを通して情報を耳打ちします。
バックグランドのチェックはSNSなどを駆使してデータを集めているのと、社内にハッカーっぽい人がいてちょっと違法っぽいですが、どこぞのサーバーからデータを集めてきます。
アメリカでは違法に集めたものは証拠にならないので、そこら辺はしっかりとやっています。こちらの主張が受け入れられるように陪審員と言葉を選んで裁判を有利になるように進めていきます。
うまいやり方だなぁと感心してしまいました。陪審制では確かに陪審員が重要です。陪審員さえ味方に付けることができれば裁判が有利になります。こんな会社があってもおかしくないリアルさがあります。
殺人をしたと誤認逮捕された人の弁護をし、有罪になるか無罪になるか、または殺人をしたと認めれば刑を軽くするという司法取引を行うかという場面で、裁判科学を元に博打とハッタリをかまして司法取引を拒否し、無罪を勝ち取るのは見ていて気持ちが良いです。
勧善懲悪の気持ちよさ
「Bull」は基本的には Bull が弁護する側が勝ちます。勧善懲悪ものに近いです。見ていて安心できるのと、うまい言い回しで陪審員の心を動かしていくのが面白いです。
TACが真犯人を探し出し裁判中にその事実を単なる証人かと思われた人に突きつけたり、新事実を告白して陪審員や傍聴者がどよめく場面が気持ちいい。それで一転して裁判が有利になります。どんでん返しっていいですよね。
警察でもない会社が真犯人を捜し出せるのは、TACには元FBIの人と、優秀なハッカーがいるためです。至れり尽くせりですが、彼らがとても優秀です。
うまい言い回しや話のもって行き方が勉強になるのと同時に、ヒューマンドラマがあり、裁判が単なる勝ち負けで終わらないところも良いです。裁判外でうまく Win-Win に持って行こうとします。
Season 1 は弱者の味方をしたり、優しい場面がたくさん出てきて楽しめます。ですが Season 2 はちょっと主人公の Bull が変わってしまい、仲間を罵倒したり、お金のために弁護を引き受けたり、感心できない場面がたくさん出てきます。
これは Season 2 の最後で「種明かし(伏線回収)」があるとAmazonにレビューコメントがありましたが、そこにたどり着くまでが長く、どうして Bull はそんなにきつく言うんだろうと少し残念に思いながらも Season 2 も裁判のやりとりは楽しく見れました。
Season 2 の最後まで見ましたが、これが伏線回収かどうかは次の Season を見ないと確定しないです。伏線回収であって欲しいです。
今はまだ Season 2 までしか公開されていないのですが、おそらく Season 3 で Season 2 の Bull の身勝手な行動の理由を説明して見ている人の心の浄化を行うんだと思います。そうあって欲しいです。
自動運転車でのトロッコ問題の新しい答え
「Bull」では世の中のトレンドに対応したストーリーが展開されます。eスポーツのプロゲーマーが試合でわざと負けたと言われてオーナーを訴えたり、軍の機密情報を公益のために流出した人が訴えられたり、自動運転の車が人を轢いてしまって責任者が訴えられたり。
私が特に面白かったやりとりを1つ紹介します。ネタバレというわけではなく、裁判中のやりとりの一場面です。
トロッコ問題は有名なので知っているでしょう。ブレーキが壊れたトロッコの進路を、人を轢き殺す前提で、線路上に立っている人が少ない線路にするか多い線路にするかを決定させる問題です。テスラ社などの自動運転車が事故を起こしたときに再び話題になった問題です。
下は Season 1、10話「E.J.」の中の場面です。自動運転車が事故を起こして乗っていた運転手(運転席に座っていた人)が死亡、Bull 側はそれを作った責任者の弁護をしています。
検察側「(車に搭載された「E.J.」というAIの)このアルゴリズムを説明してください」
自動運転車の会社の証人「事故死が避けられない場合に、車の進路を決定します」
検察側「例えば道に木が倒れていて、右に2人乗りの車、左に3人乗りの車がいたら、御社の車はどちらに衝突をするのでしょう?」
証人「このアルゴリズムの目的は犠牲者を減らすことだ」
検察側「では2人乗りの車を選ぶ?」
証人「...そのまま直進します」
ざわざわ
なるほどなと納得。これは検察側には有利な話として展開されます。誰を殺すかを自動運転車に搭載されたAI(真のAIではなく、アルゴリズム計算)によって判断されてしまうのです。
ですが、単に犠牲者を減らすことだけを考えると、進路を変えて他人を犠牲にせず、自動運転車に乗っている人だけを事故死させるという判断も正解の1つなのかもしれません。
他人事としては確かに犠牲者が減って良い判断のような気がしますが、もし自分がその自動運転車に乗っていたらと考えると他の選択肢が欲しくなります。
たぶんこの問題は今後もっと議論されていく問題でしょう。本当に自動運転車が完成したとしたら、事故を起こした時の責任は自動運転車を作った会社が全て負うことになるのかもしれません。所有者や乗っている人は車を運転していないので責任がないです。
こう考えると自動運転車は作る側の責任がかなり重いです。まぁ自動運転車はそういう商品ですしね。利用する側としては気楽です。たぶん事故率もかなり下がるでしょうし。
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