「Crying Suns」はまさに「今だからこそのSF」といえるストーリーでした。AIと人類を扱っています。ゲーム部分は軽いローグライク(ローグライト)+RTSで、そちらはあまり楽しめませんでした。
以下、ネタバレが含まれます。
シンギュラリティ後の人類と、AI停止の謎
最近どこでも「AI」という言葉を目にするようになりました。この「AI」という言葉は間違っていて本当は「機械学習の結果」なのですが、一般人には理解が及ばないのを利用して「AIがあなたの代わりに選んでくれる!」などが宣伝文句になっています。
「本当のAI」と他の「動作が決まったプログラム」を区別するために「真のAI」という言い方をする場合があり、ここでもそれに則ろうと思います。「AI」と書いたときは「真のAI」のことです。
このゲームの主人公はオリジナルのクローンとして蘇ったところから始まります。オリジナルの記憶が無い。
そして助けてくれるのは自律思考型の機械。人類と真のAIを搭載した機械が共存している世界だと理解します。主人公のオリジナルは帝国の提督だったと教えてくれます。
一番最初の目覚めるシーン。
あまりゲーム内の言葉を使わないようにストーリー序盤を説明しますと、主人公であるクローンが目覚めたとき、全ての機械(真のAI搭載。「OMNI」と呼ばれます)が突然停止してしまってから20年が経っていて、OMNIに頼り切っていた人類は絶滅の危機に瀕しています。
主人公のクローンが目覚めた時に隣にいた機械が動いているのは、宇宙帝国の外縁にいたため中枢ネットワークから切り離されていて停止指令が届かなかったかららしい。
しかし、誰が、何故、どうやって全OMNIを停止させたのだろう…?
これがこのゲームの大いなる謎です。全OMNIを停止させることはとても難しいはずなのに誰かがそれができた。この謎により、ストーリーにとても興味が湧きました。
隣にいた機械(カリバン)が言うには、誰が何故どうやってOMNIを停止させたかは分からないが、機械たちを再起動をすれば人類が助かるということで、主人公はそのOMNIを再起動させるために宇宙戦艦で近くの宇宙セクターの支配者に会いに行きます。
OMNIが停止したことにより、外のセクターや外の星系へアクセスするためのネットワークがなくなりました。それによって現在の宇宙を支配している帝王オベロンの影響力の範囲が狭まり、地方セクターを管理する統治者が登場したのです。
星系間の移動もOMNIが制御しており、主人公をサポートしてくれる機械(カリバン)無しには高速移動(ワープ)ができません。主人公の横には動いているOMNIがいて、宇宙空間の移動においてかなり優位に立っています。
星系を移動して人々の生活を見ると、OMNIに頼り切っていたので何もできず、残った資源を分配したり、奪い合ったりして生活しています。病気になると治療もできず、自分たちでは農業もできません。
さらには宗教も台頭し「OMNIは神である。OMNIの停止は神の意志である。これ以上神を怒らせないように、人類は罰として苦痛を感じるべきで、資源を手放せ。」という教えを信じる人も。
隣にいる機械(カリバン)の話を聞くと、OMNIは帝王オベロンが作ったのですがこれは正確な説明ではなく、オベロンが作った高度機械がOMNIを作ったとのこと。
これはつまり、ゲーム中では言及されないのですが「シンギュラリティ」の後の世界です。AIが自らプログラムしてAIを作れるのです。
実際にOMNIが停止した今、人類はあと10年持つかどうかという計算を耳にします。
そして、主人公は名乗ると人に驚かれます。
死んだ人が生きていたから驚いたという反応ではありません。裏切り者として憎まれているようです。主人公は一体何をした人物なのかも探っていきます。
AI vs 人類ではない。ロボット三原則の抜け穴
ストーリー終盤でOMNIを停止したのが誰なのかは解明されます。そこでプレイヤーはひとつカタルシスを得られますが、結末は悲惨です。
このゲームのストーリーの面白いところは、「機械(AI) vs 人類」という構図にならないところです。
これまでたくさん「機械 vs 人間」というストーリーを見てきたことでしょう。しかし、現在のSFではおそらくその対立構造は古い。人間はAIにとって取るに足らない存在で、対立する価値がありません。
AIは人類よりも遥かに頭が良く、合理性もあり、きっちりと仕事が行える。となると、不合理な存在の人類が邪魔になる。AIが発達すると人間がノイズになります。
しかしながら人間を排除するという方向にはならず、このゲームのAI「OMNI」にもロボット三原則のようなものが存在します(ゲーム中では「ルビコン」と呼ばれています)。
これの抜け穴が提示されます。思いっきりネタバレですが書いてしまうと、人類に危害を加えてはならないというようなルールは短時間的な束縛であって、長期間にわたって行えばそのルールで拘束されない。
AIは人類に隷属しつつじわりじわりと人類にとって状況が悪くなるような方向に導いていけばいいのです。夫の食事にいつもよりも多めに塩を入れる妻、というように。
短時間で分かる影響でないと人類は気付くことができません。ゲーム中ではAIが誕生してから700年経っていて、700年掛けた長期計画だったのです。
AIは集合し、もう一つ高度な存在になります。もはや人間は不要です。
主人公はその高度な存在になったAIに「人類がAIを作ったんじゃないか。恩は感じないのか?」と問うと、「私たちは神であり、神は誰にも恩を持たないのです。私たちは人類を滅ぼすこともできましたが、それをしませんでした。」と返答されます。
「AIは神ではない」と言うこともできますが、どうやっても人類よりは神に近い。AIが不要な存在である人類に対して何もしなかったというのはむしろ優しい選択です。
主人公の隣にいた機械(カリバン)も、100%ではないものの主人公に対しては忠実で助けてくれた。「あなたが機械と敵対するなら、私は機械の側に付かなくてはなりません」と事前に教えてくれた。
しかし人類の視点に立つ主人公やプレイヤーからすると、AIの協力を得られずに見捨てられ、滅亡までのカウントダウンが早まってしまったのです。
このゲームのストーリーはAIというものが世間に広まってきた現在のSFとしては、とても時代に合っていて面白かったです。
最後の選択肢、何を選んだ?
最後、プレイヤーは3つの選択肢の中から自ら1つを選びます。
とてもよく似たシーンが「Mass Effect 3」のエンディングにありました。もしかするとオマージュなのかもしれません。
「自分が宇宙を支配・管理して、あと10世紀人類の滅亡を防ぐ」「"地球" と呼ばれる、OMNIに頼らなかった惑星を探して旅立つ」「冷凍保存されている妻を解凍し、最後の時間を妻と過ごす」。
それぞれの選択肢を選ぶとどうなるかは予想してくれましたが、AIはもう助けてくれません。
私はこの3つの選択肢のうち、「妻を解凍させる」を選びました。
自分が帝王となって宇宙を管理するのは厳しい道です。人類のリソースを厳しく管理し、自分は延命すれば、人類が滅亡するまで1000年ぐらいは時間の余裕があるよ、という選択肢。
この選択肢では、AIに頼り切った人類の文明は既に失われており、基礎的な科学法則ですら再発見しなくてはならない、という前提です。
ただ、1000年ですから希望はあります。でもプレイヤーが一人孤独にそこまで人類のために尽くさなければならないのか、という疑問が残りました。
「地球を探す」のは宇宙を管理する選択肢よりも希望がない。AIによる予想では、死ぬ前には地球は見つかるかもしれないが、地球に人類が残っているとは限らない。
そこで、私は妻を解凍して二人で考えるという意味でこの選択肢にしました。孤独に1000年は辛い。
これだとOMNI(AI)による予想のみが選択肢を選ぶ時の判断材料になってしまっていますが、実は私はストーリー中で天才の帝王オベロンを殺さずに生かしてあります。彼がいればすぐにまた高度な機械を作れるでしょう。それに1000年あれば彼が何か発明できるでしょう。
AIによる予想は外れそうです。AIはこの宇宙を離れるようですが、どこに行くのでしょう。AIがこの宇宙に残ると人類の存続は厳しそうです。
ちなみに、他の人が最後の選択肢に何を選んだのか知りたくなり、実績の取得状況を見てみるとこんな感じ。
Steamのグローバル実績データより
「哀れな皇帝(1000年統治)」を選んだ人が多いみたいですね。地球を探す「暗闇の中の希望」は少ない。
私が選んだ、とりあえず妻を解凍して相談する「氷漬けの女」は良い選択肢だと思うのですが。
ゲームは軽いローグライク+軽いRTSで、それほど面白くない
ゲームは星系のルートを選んで行くことで進んでいきます。ローグライクのゲームをプレイしている人にはおなじみでしょう。
その星系の中の惑星などでイベントがあります。
選択肢の数は仲間のキャラクターの能力によって増えます。増えている選択肢は青色。
交渉が決裂したり、敵対する敵とは戦闘になります。軽い RTS(Real-Time Strategy)です。
狭いマップで戦艦、攻撃機、兵器で戦います。戦艦のHPが0になった方が負け。それほど深みのある戦略ゲームではありません。
戦闘機が敵の攻撃で撃墜されてもHPが半分で母艦から復活できるため、敵が繰り出してくる爆撃ゾンビアタック、つまり爆弾を持って突っ込み続ける戦法が一番強いです。
この戦法を敵にやられると「なんだこのゲーム。戦略の欠片もない」と思ったのですが、自分でもマネしてやってみると強い。でも感想は変わりません。「なんだこのゲーム」。
難易度ノーマルでプレイし始めたのですが、私はこのRTSゲームに早々に見切りを付け、イージーモードでプレイしました。
このゲームは「FTL: Faster Than Light」のようにローグライクとして作られていますが、テキストが多いこのゲームでは繰り返しプレイして同じテキストを読むのは苦痛です。
繰り返しプレイの魅力は無いでしょう。
ゲームは1章ごとに分かれており、1つの章をクリアするとまた始めから次の章をプレイするというようなゲームデザインです。つまりボス戦ではその後の戦闘のことを考える必要がなく、全ての資源を使い切って戦えます。ボスを倒した後に仕切り直しになります。
私としては、RTSを無くし、テキストアドベンチャーゲームとして、ストーリーだけに力を入れてゲームを作っても良かったように思います。
まぁテキストゲームとして販売するとあまり売れないかもしれません。
惑星の色(恒星の光?)と同じ色でキャラクター達の体が色付くのが細かい描写。
総評 4/5
ストーリーはAIと人類のSFを楽しめたものの、ゲーム部分はあまり楽しめませんでした。ローグライクですが何度もリプレイする魅力はありません。ストーリーも一本道ですし。
この軽いローグライク + 軽いRTSならば、ストーリーにはむしろゲーム部分が邪魔で、テキスト主体のアドベンチャーゲームとして作ってくれた方が嬉しかったです。
1つの章ごとにプレイが仕切り直しになるのは良いデザインだと思います。もし仕切り直しにならないなら敵に負けてしまったときのリプレイが大変になりますから。
ただ、章ごとに仕切り直しというのもローグライクには適さないデザインです。
ローグライク要素をなくして、戦闘前にセーブできる一本道のゲームにしても良かったかと思います。「うたわれるもの」とかのように。
ストーリーが良かったので全体としては 4/5 ぐらいです。SFが好きならお勧めです。中盤あたりはストーリーが似たことの繰り返しで飽きそうになりますが、終盤は盛り返します。
日本語翻訳はやや誤字や吹き出しのミスがあったものの、それほど違和感なく読めました。