「民族全体を恨むな、その個人を見よ」というメッセージは良いが、人を殺してはいけない理由を説明しないのが陳腐『Tales of ARISE』レビュー
「Tales of Arise」をクリア。とても面白かったです。実績は 100% 取得。
プレイしていただけで実績の9割ほどを取得でき、残りも取得の難しい実績がないので全部取得できました。
ゲームの購入前にSteamでのレビューコメントを見たら、DLCがないと常に金欠、敵が硬いというコメントが多かったです。
なのでDeluxe版などのDLCセット版を買うべきか迷っていましたが、DLC商法に乗っかるのも嫌なので通常版を買いました。結果、通常版で問題ありませんでした。
あ、女性の水着のDLCだけ買いました。このゲームはキャラクターの顔や体のモデルが良く出来ていて、外見の着せ替えが楽しいゲームです。水着DLCがあると、フィールドを動くときに常にお尻を眺められます。
目次
水彩画風の映像がとても綺麗。色使いも綺麗
映像はとても綺麗で、水彩画のような描き方です。高解像度で綺麗という意味ではなく、水彩画風で芸術的に美しいです。
描画負荷を減らすため遠くのものを簡易的に描くシステムがありますが、これと水彩画風の映像は相性が良いですね。水彩画風だと遠くの物が簡略化されていても気になりません。とても優れたレンダリングだと思います。
↑ 遠くに見える城が水彩画的で淡くとても良いです。水着のDLCはこんな感じです。
色使いも綺麗です。ただ戦闘では色がごちゃごちゃしていて見にくい場面もありました。敵の魔法なのか、味方の魔法なのか分かりません。
↑ 戦闘での決め技。色使いが綺麗。
↑ エフェクトが派手なので敵の魔法なのか味方の魔法なのか分かりません。
ストーリーは「殻」から「惑星」に。視点の転換で相手のことを考える
「テイルズ・オブ・アライズ」のストーリーは奴隷である自らが奴隷の開放をするというもの。惑星ダナが惑星レナに奴隷化されています。主人公は記憶喪失。記憶喪失の理由付けもあって良かったです。
私の印象では「テイルズ」シリーズというと、ストーリーを壮大にするために地球の「殻(かく)」が毎作登場していてシナリオライターが「殻」が大好きなんだろうなぁという印象です。
でも「Arise」では「殻」が登場せず、別の「惑星」が登場してちょっと趣向が変わっていました。
たぶんシナリオライターはストーリーを通して、みんなの「意識」「偏った物の見方」を変えさせたかったのではないかと想像します。
最初は自分たちダナ人を奴隷としてこき使う、惑星レナから来た大将が「倒すべき敵」でした。
レナ人とダナ人の対立を見せ、「レナ人は全て悪である」という人がよく陥りがちな視野の狭窄にとらわれたキャラクターを登場させ、その狭窄から開放します。
新しい事実によって「倒すべき敵」は「レナの社会システム」に変わります。
ストーリーが進んでダナを支配する数少ないレナ人を追い払うと、惑星のエネルギーの話になります。以前の「テイルズ」ならここで「殻」が登場するタイミングです。
さらにレナ人も実は…と新たな事実を知り、「倒すべき敵」がさらに変わり、物事を見る視座も変わります。
惑星のエネルギーは「ファイナルファンタジーVII」かと思いました。何から着想したのか分かりませんが、惑星エネルギーも意識を持つという話になり、最後は惑星の「意識」が「倒すべき敵」になります。
このように新しい事実によって「物事の見方」と「倒すべき敵」が変わっていき、ストーリーに飽きにくい展開になっています。
ただ全体的に舞台設定の作り込みがしっかりしていなくて、惑星レナの社会もふわっとしていて、そこに惑星の「意識」が登場するとストーリーが突拍子がなく、他の要素も含めて突っ込みどころが満載となり、話のまとまりが付かなくなります。
惑星の「意識」が実体化したものと戦うというのがどうにもモチベーションが湧かず、全ての元凶がこれでは結局このストーリーは何だったのだろうと、最後はむなしいです。
このゲームのメッセージは次の2点か強いです。
- あいつが憎いからといって、その民族全体を憎むな。一人の人間として個別に見よ
- 人を殺してはいけない
あいつが憎いからといって、その民族全体を憎むな。一人の人間として個別に見よ
これは日本の状況を鑑みて、「あいつが憎いからといって、その民族全体を憎むな。一人の人間として個別に見よ」ということを言いやすくなったからゲーム内で表現したのでしょう。
「アライズ」ではレナ人とダナ人の対立なので「民族」と表現してしまいましたが、「大きなグループ」の話と考えても構いません。
抽象度を上げると、「一部だけを見て全体がそうだと決めつけるな」というようなことです。
近年の日本は政治やメディアが反韓・反中・愛国を煽って利用していました。ここ最近は日本の衰退具合をメディアがやっと報道し始め、一般人にも知られるようになり、煽動力が弱まりましたが。
社会全体がネット右翼化していました。アジア、とりわけ韓国や中国が発展していく中、日本人が不安に陥ります。
そこで「実は日本って凄いんだ」として「海外から見ても日本ってスゴイですね」という愛国心を奮い立たせるようなテレビ番組やメディア記事が増えました。一時しのぎの不安の解消です。最近は日本の実態が分かって減少傾向でしょう。
「日本スゴイですね」系テレビ番組として有名どころでお笑い芸人の爆笑問題が司会を務める「ニッポン視察団」という番組があり、たまたま観たときに「日本は生徒が学校を掃除して偉い」と言っていて、なんだこの番組と思ったのを覚えています。
その頃、韓国を褒めたり、日本はダメだということを言いにくかった時代です。そういうことを言うと、「日本が嫌いなら日本から出て行け」と言われていました。何て陳腐な愛国心でしょう。
韓国の反日政策に対抗して日本で反韓ムードがあった時に、今回の「Tale of Arise」のレナとダナの対立のような構造に仮託し、「韓国(レナ)の政策は嫌だが、韓国人(レナ人)全体がその考えをもっているのではない」とメッセージを伝えて欲しかったです。
「Tales of Arise」の発売は 2021年ですから、もう韓国のアイドルが世界的に人気になって久しい時代です。ですから本当はヘイトスピーチ問題が話題になった頃に、このメッセージがあると社会的に良い影響が生まれたかと思います。
ただゲームというメディアでは難しいのでしょう。社会的メッセージがゲームに含まれるのを嫌う人もいますし、商売としてはゲームが売れなければならないので、この手の炎上する可能性のあるメッセージを伝えるのは難しい。
特に同調圧力が強く均質化的で全体主義的な日本では、当たり障りのない無難なメッセージにしておかないと。
今回の「アライズ」のメッセージは重要な考え方なので表現しないよりは良いのですが、韓国からの反日、日本からの反韓、双方の勢力が弱くなって、みんながこの考えを持つようになって「当たり前」化してからこの表現するのは潮流に乗っているだけで、私からするとちょっと格好悪いです。
…もしかしてまだ「当たり前」になっていないのでしょうか。SNSを見ていると日本社会が退行しているようにも見えます。
「アライズ」が子供に向けたストーリーだとするなら、ゲームで1人と全体の考えは違うことがあるのを体験できるのは良いところだと思います。
ただ、ゲーム序盤の奴隷の時間がかなり短く、虐げられている体験がプレイヤーに強く残りません。主人公は奴隷という立場でも戦いができる強者で安心感がありすぎます。
結果としてプレイヤーには虐げられてきた印象が弱すぎるため、「レナが憎い」と言っている女の子のキャラクター(リンウェル)にうまく感情移入できません。
奴隷の体験は「ドラゴンクエストV」の方が優れています。
人を殺してはいけないなら、理由を説明して欲しい
「人を殺していけない」というメッセージが随所に出てきます。
ただこれは日本の教育の悪いところが出ており、なぜ殺してはいけないのか理由が分かりません。頭の悪い親が子供をコントロールする時のしつけ、または頭の悪い教師による学校教育のように感じられます。
よって、「Tales of Arise」はずいぶん道徳的なストーリーだなと感じてしまう人もいるでしょう。
これは理由を説明しない(説明できない)シナリオのせいです。
リンウェルという女の子のキャラクターが主人公一行にいます。彼女は自分の両親を殺したレナ人(ガナベルト、レナの国の支配者層)を殺そうとして攻撃を放ったのですが、彼女に恋心を寄せる男の子(ロウ)がなんとこのレナ人の前に立ち、その攻撃を防ぎます。
「殺してはいけない」
…はぁ?
リンウェル: 「私はこの(復讐の)ためだけに生きてきたんだ!」
ロウ: 「人を殺してしまったら後悔する」
何で? 後悔するかどうかはその人の考え方に依ります。ロウの考えを押しつけています。復讐のためだけに生きてきたなら、むしろ殺させてあげた方が心がすっきりしそうです。
リンウェル: 「あんたも父親の復讐をしたくせになんで私の邪魔をするの」
ロウ: 「憎しみで人を殺すな」
何で? たった今ロウの目の前でもこのレナ人(ガナベルト)によってダナ人が数百人殺され、リンウェルはこのレナ人に両親を殺されているのだから憎むのは当然です。ガナベルトは殺しておかないとダナ人がもっと殺されてしまう。
「Tales of Arise」の世界は法律がなく、なぜ人を殺してはいないのかを法律抜きで考える良いチャンスです。
何で人を殺してはいけないのかの理由を何でも良いのでシナリオライターの考えで説明して欲しかったのですが、微塵もありませんでした。
しかも自分で殺すのではなく、人に殺させるのはOKなんですよね。不思議です。浅いストーリーと言われてしまっても仕方ないでしょう。
憎しみで人を殺すと後悔するということを表現したいなら、実際に憎しみで人を殺して後悔しているキャラクターを登場させてプレイヤーにその姿を見せる手もありました。
私はこのようなシナリオでよく思うのは、絶対に人殺しはダメだと考えている人の大切な人(家族や恋人など)が目の前で殺されるシーンを見せて同じ立場になって欲しいと思います。
例えばリンウェルに「人を殺してはいけない」と説明しているロウの目の前に、ロウの大切な人を連れてきて目の前でガナベルトに殺されるのを見せる。
この時ロウはどういう反応をするのだろう。それでもロウが「ガナベルトは憎いが殺してはダメだ」と言うのなら筋が通っているので意志の貫徹として納得できます。
人を殺してはいけない理由は分からないのですが、カントの定言命法です。
もし立場によって意見をコロッと変えるならばクズだなぁと思います。
日本のRPGのストーリーは危機感が乏しく、リアルさに欠けます。生きるか死ぬかという状況で何でもかんでも「人を殺してはいけない」と言っている人にイラッとする人は、ドラマの「ウォーキング・デッド(The Walking Dead)」をおすすめしておきます(Amazon Prime Video、Hulu、U-NEXT
)。
私は「ウォーキング・デッド」の方が人間の行動にリアルさを感じます。シーズン8あたりで私の好きなキャラクターのグレン・リー(スティーヴン・ユァン)が殺されたのと、ドラマの雰囲気がかなり変わってしまったのでそこから見ていませんが。
最初の方のシーズンは楽しめると思います。
まとめ: かなり良作。テイルズシリーズはシステムが進化し続けていて嬉しい
「テイルズ・オブ・アライズ」はかなり楽しめました。良作だと思います。前作の「テイルズ・オブ・ベルセリア」も私はかなり楽しめましたので期待していました。
テイルズシリーズはなんだかんだでシステムが進化を続けているのが嬉しいです。
私が特に嬉しいのは会話音声のスキップ。昔のテイルズはパーティーの会話が全くスキップできず、毎回ボイスドラマを始めから終わりまで聞く必要がありました。
私は会話はテキストで瞬間表示されるタイプが好きです。ボタンをポンポン押して会話を進められますから。会話をボイスで全部聞かないと気が済まない人もいるようなのですが、私はその時間が耐えられません。
「アライズ」でのパーティの会話(スキット)はマンガ風のコマ割りで表示されます。ボタンで次のカットへスキップ可能。快適。
ストーリーのイベントも7割方がスキップ可能です。
フィールドでは自動会話が勝手に始まるのですが、これのシステムが悪く、敵が近づいて戦闘が始まると会話が強制終了して二度と聞けません。次回作はここを改善して欲しいです。
戦闘も改善されています。特に良かったのは、以前のテイルズはリザルト画面が戦闘終了ごとに表示されていましたが、今回は敵を倒したらすぐにフィールド画面になり、戦闘スコアなどはフィールドを動きながら見ることが出来ます。快適になっています。
戦闘自体も楽しめました。以前は3Dの戦闘だと位置がうまく調整できないこともありましたが、操作しやすいように改善されています。
Steamのレビューコメントでは敵が硬すぎるというコメントが多かったのですが、これは後半からです。1回の戦闘の時間が長くなってきて、雑魚敵との戦闘が億劫になってきます。
まぁでも敵の堅さは許容範囲ではないでしょうか。私はストーリークリアまでは難易度ノーマルでプレイしました。エンドコンテンツは敵のレベルの上がり方が急になるのでレベル上げをする必要が出てしまいます。面倒なので難易度を下げたらとても快適になりました。
AIはちょっと頭が悪い。今作は味方が狙う敵のターゲットを変えられません。そのため味方の攻撃が分散してしまい、戦闘が変に長引くときがあります。敵に連続して攻撃を当てると溜まる必殺技ゲージがあるのですが、これは皆で同じ敵を攻撃した方がゲージが早く溜まり、戦闘が早く終わるのですが…。
戦闘が面倒な人は難易度をベリーイージーに下げると良いでしょう。30レベルぐらい上の敵も楽に倒せます。
アクションゲームに自信がある人は、敵の攻撃が当たる瞬間に回避行動をするとカウンターが出せますので、それを狙うと楽しめると思います。
また、Steamのレビューコメントでお金が足りないというコメントが多かったのですが、私はそれほど困りませんでした。たぶん釣りを少し長くやっていたからです。釣りをすると釣った魚がなかなか高く売れて、特に序盤~中盤は助かります。
後半はマップが広くなり、同じような構造が続くマップばかりに。今作は後半は戦闘とマップのバランスが悪いですが、全体的には満足のいく内容でした。
ストーリーの出来はそんなに褒められたものではありませんが、飽きさせないようにする工夫は感じます。今作は舞台設定からしっかりと固められていない印象も受け、突っ込みどころがかなり多いです。
今作はストーリーの出来を忘れるくらい、映像の綺麗さから来る満足感がすごくあります。水彩画っぽい映像がすごく好きです。水彩画過ぎないところも良く、加減がうまい。
女性キャラクターも可愛い。攻略の補助のDLCは要りませんが、水着のDLCはおすすめです。
私は男の方はそんなに興味が無いのですが、女性から見ると好みの造形なんだろうと思います。犬っぽいと表現される男の子もいますし。女性はそういうのが好きなんでしょう?
私は日本のRPGが好きなのですが「テイルズ・オブ・アライズ」には総合的にとても満足で、JRPGの中でもトップクラスだと思います。とても楽しめました。